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What a fool believes/Doobie Brothers
2008 / 09 / 04 ( Thu )
「よぉ!久しぶり!」
通りで立ち止まり、時計屋のショーウィンドウを眺めていると後ろから声をかけられた。
振り向くとそこには男がいて、握手でもしそうな表情でオレを見ていた。
「えーっと・・・」
「高校時代以来じゃないか?スティーブ、元気そうだね」
何かの売り込みかあるいは詐欺か・・・、一瞬身体に走らせた緊張を自分の名前が聞こえたことで押しやって、オレも男に作り笑いを浮かべた。
「ああ、ありがと・・・、君も・・・、元気なようだな」
その声に、男は満足そうな笑顔で応えた。
「最近は何やってるの?僕はさ・・・」
こちらの困惑をよそに、男は自分の近況を話し始めた。
オレはそれをまた作り笑いで聞きながら、男と自分にどんな接点があったのかを何とか思い出そうとしていた。
「ああ、立ち話もなんだし、お茶でも飲まないか?懐かしい話をしようじゃないか」
男の提案に、オレは断る術もなく頷いた。男の周囲からは、オレ達がかつてそういう付き合いをしていたというゆるぎない自信だけが漂っていたからだ。

一体、こいつと昔のオレにはどんな関係があったんだ?

全国でチェーン展開しているカフェの窓際の席に座り、大してうまくもないカフェオレをすすりながら、オレは男の言う「懐かしい話」を聞いた。しかしそれは、まるでどこか別の国の高校生活を説明されているような感じだった。
しかし、男の言った学校の名前や担任の渾名、更にはクラスメイト達の容姿や特長は確かにオレの記憶と符合した。どうやら、この男が20年の時を飛び越えてやってきた知り合いであることは間違いないと思うしかないようだった。
だがそれでも、この男が当時教室で何をしていたのかを、オレは全く思い出せなかった。
どこのスーパーで買ったのかわからない薄紫のボタンダウンは、襟元のボタンが片方とれていた。しかも肩にはうっすらとフケが浮いていた。7-3に分けた髪は後頭部で跳ね上がり、その無頓着さが薄くなり始めた前髪の寂しさを強調していた。確かにオレも若くはないが、目の前の男が自分と同じ年であるなどとはどうしても信じられなかった。
「相変わらずスウォッチ集めてるのか?」
「え?」
「あの頃も君は腕にスウォッチだったじゃないか」
「ああ・・・、そうだった、かな」
「あの後ブームになった時、僕は真っ先に君のことを思い出したよ。流行に敏感な男だったんだなって」
「そうなのか?まぁ、別に意識していたわけじゃなかったけどな・・・」
ただ金がなくて、安い時計の中で一番マシだと思ったものを使っていただけだったが、確かにあの1本がきっかけでその後も何となく買うようになってはいた。ただ、だからといって集めていたという言われ方もまたどこか納得できないものだと感じた。
そうなのだ。
この男の話は過去のある場面を引き出す効果を生みはするが、その時この男がどんなことをしていたのか、いや、どんな顔をしていたのかが全く頭の中に浮かんではこなかった。それはもはや居心地の悪さを通り越し、気味の悪さへと気持ちをシフトダウンさせなければならない空気だった。何故なら、無関係であるオレのプロフィールをどこかで知り、その当時のことを幾重にも調べ集めてきたような、言ってみれば作られた過去のように感じたのだから。
「・・・君も」
うまく話を合わせることもできず、どう反応していいのかわからないまま何度も愛想笑いを浮かべていたであろうオレに、男は目を伏せながら言った。
「同じだな」
「同じ?」
「ああ」
「・・・?」
男は、人のよさを強調しているんだと言わんばかりのステレオタイプな笑顔を崩し、もう一段深く目を伏せた。
「この前ね」
「・・・」
「昔の彼女に会ったんだよ」
「彼女?君の?」
「そうだよ。おかしい?」
「いや、そんなことはない。ただ、ちょっと驚いただけだ」
「・・・」
「気を悪くしたら謝る。すまん」
男は薄い前髪を掻きあげた。
「僕にもね、高校時代に彼女がいたんだよ」
「・・・知らなかったな。そうだったのか」
「その相手と、久しぶりに会ったんだ。まるで、今日君と会ったようにね」
「・・・ふむ」
「まぁ、恋人としては終わっても昔の友達でもあるんだから、やっぱり声をかけたんだ」
「・・・なるほど」
「そして、あの頃のことを話したんだ」
「・・・それで?」
「だけどね、まるで話が合わなかったんだよ・・・」
「どういうことだ?」
「教室で話したことや、一緒にキャンプファイヤーを見たこととか、僕には昨日のように思い出せることが、彼女にはね・・・。そうだな、その話を初めて聞いたような素振りだったと言えばいいのかな・・・」

 He came from somewhere back in her long ago
 The sentimental fool don’t see
 Tryin’ hard to recreate
 What had yet to be created once in her life


 彼は昔、確かにどこかで彼女と会ってはいる
 でも、彼は現実がどうだったのかがわからない、ただ感傷的な愚か者
 彼は必死に彼女との思い出を再現しようとしているけれど、
 そんなもの彼女の人生にはなかったことに気がついていない


 She musters a smile
 For his nostalgic tale
 Never coming near what he wanted to say
 Only to realize
 It never really was


 彼女は作り笑いを浮かべている
 彼が言う「懐かしい話」に
 彼女は、彼が言いたかったことに共感などできはしない
 だって、彼女にわかっているのは
 彼の話は実際にはなかったってことだけだから


 She had a place in his life
 He never made her think twice
 As he rises to her apology
 Anybody else would surely know
 He’s watching her go


 彼女は、これまで彼とどこかで接点はあったけれど
 それは、もう一度思い返すことなどない些細なもの
 話を合わせられない彼女が謝っているのを見て、彼も席から立ち上がる
 こういう時、普通のヤツなら、もう彼女と話すことなどないとわかるけど
 彼はただ、去っていく彼女を見つめているだけ


「僕にとっては、人生でただ一人彼女と呼べる人だからね」
「じゃ、結婚は・・・?」
「してない。だってさ?」
「うん?」
「自然消滅ってことなのかもしれないけど・・・、まだ彼女から別れようって言われてないんだからね」
「え?」
「恋人ってそういうものなんじゃないのかな。違うの?」

 But what a fool believes he sees
 No wise man has the power to reason away
 What seems to be
 Is always better than nothing
 And nothing at all keeps sending him...


 でも、愚か者がかつてあったのだと信じる物には
 愚か者だからこそ、それが現実だったのだと信じ通す力があるものさ
 「そんな感じのことがある」、それっていつも
 何もないよりはまだマシだってこと
 思い出を捏造する材料すらないよりは、まだマシだってことだから


・・・男の話を聞きながら、オレはそんな古い歌を思い出していた。
もしかしたらこいつは、あの曲の中で歌われている「ただの感傷的なバカ」なんじゃないか?と。
オレと同じ学校に行き、同じ授業を受け、同じイベントに参加したことは事実かもしれない。しかし、そこにあったものはただクラスが同じだったというシチュエーションだけで、友達だったという人間関係は存在しなかったんじゃないか?と。
それならば、彼女の話もこいつの頭の中だけで描かれたもので、実際にそんな交際があったわけじゃないのでは・・・?

 Somewhere back in her long ago
 Where he can still believe there’s a place in her life
 Someday, somewhere, she will return


 彼女が歩んできた過去のどこかに、
 彼はまだ、二人の思い出があると信じている
 だから、いつか、どこかで、また彼女は自分のもとへと戻ってくる、彼はそう思っているんだ


「まぁ、そう落ち込むなよ」
オレは黙っている男が少しかわいそうになり、そう声をかけた。
「君の記憶力がすご過ぎて、オレも、その彼女もさ、ついていけないだけなんだよ」
「そうなんだろうか・・・」
男はズズっと下品な音をたてながらコーヒーをすすった。
「だって、もう何年も昔の話じゃないか。そうだろ?もう全てはカタがついてるんだよ。あの頃のことを回りにいた連中が覚えていようがいまいが、君の人生にはもう関係ないだろう?違うか?」
「・・・関係はないけどさ」
「けど、何だよ?」
「・・・寂しいよね」
「・・・それは、うん、まぁ、そうだろうけど」
空気がまた澱み始め、それを感じたオレはもう席を立ちたくて仕方がなくなっていた。
「でも」
男は、そんなオレに逃げ出すチャンスを与えないかのごとくこう言った。
「証拠があるんだよ」
「え?証拠?」
男はズボンの後ろに手を回すとそこから薄汚い財布を取り出して、その中から黄ばんだ写真を抜きとってオレに渡した。
「ほら、これがあの頃彼女と一緒に撮ったものだよ」
そこには、やはり髪を7-3に分けた20年前の男と、見覚えのある女が写っていた。
「ディズニーランドへ行ったんだ。アナハイムまでバスでさ、二人で一緒にね」
「・・・」
「この子、君も知ってるだろ?」
「・・・ああ、覚えてるよ」
オレは、彼女のどこかよそよそしい笑顔を見ながら、同じクラスにいたことを思い出していた。
「何人もボーイフレンドがいたからね、僕のことなんか気もとめないだろって思ってたんだ」
「・・・」
「でも、デートに誘ったら来てくれたんだよ」
「・・・そうか」
写真の日付は、確かにオレたちの高校時代のものだった。
「なのに・・・、あの時乗ったアトラクションのこととか、彼女全然覚えていないんだもんなぁ・・・」

まだ話を続けたそうな男に頭を下げ、オレはカフェを出た。
しばらく歩いた後で、オレは携帯を取り出して自分の家へと電話をかけた。
「もしもし」
出たのは妻だった。
「オレ」
「ああ、あなた。なに?」
「お前にさ、帰ったら聞きたいことがあるんだよ」
「え?」
「オレと付き合い始めた後のことをね。・・・高校時代にさ」

<関連サイト>http://pingpongkingkong.blog108.fc2.com/blog-entry-16.html
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