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Hotel California/Eagles
2008 / 09 / 08 ( Mon )
男子四十にして惑わず。
同じ仕事を二十年以上続け、マイホームを手に入れて家族を養っていると、もうその生活に変化を求めるなんてできるはずがない。不惑とはよく言ったものだ。
しかし、しがないプログラマーとして自分はこのまま終わってしまうのかと思うと、どこか寂しさや焦りを感じてもしまう。妻や子供を背負いながら、それでも新しい何かに携わりたいという気持ちは、勝負できる時間が残り少なくなっているのを実感できる中だからこそ、どんどん抗いがたくなっている。このまま枯れたくない、もう一花咲かせてみたい・・・、スキルにそれなりの自信を持つ男なら、誰だってそんな思いに駆られるものなのではないだろうか。少なくとも、私はそうだ。

ここ10年、コンピュータ業界は大きなうねりの中にある。大型汎用機からパソコンへ、LANからインターネットへ、それまでにも似たような流れの変化にさらされ、その度に私もその真ん中にいようと開発スキルを身につけて生き残ってきたが、急速な普及と機能向上で需要が爆発的に増えた携帯コンテンツ制作は、今や独立した業界として認められるまでに成長している。そこには独特の経営方針を掲げて会社の規模を爆発的に拡大させた若い経営者が何人も登場し、しかもその数は日々増えている。そして彼らが「常識に捉われては革新などありえない」、「古いことは悪だ」、「守るべきものなど何もない。あるのは攻めの気持ちだけだ」と声高に言えば言うほど、人や金がそこに集まり、その勢いは留まるどころか加速を続けている。自分の仕事が頭打ちになる中で、今後20年のうちに一般ユーザーのニーズは携帯で全てが賄える世界へ移行するという言葉を見れば、やはり心穏やかではいられない。定年を迎える間際になって技術革新の波を受け入れられるほど、自分の頭が柔らかくないこともよくわかっている。

そんな中、業界紙がここ2年のうちに売り上げを10倍にしたという記事を書いた携帯業界大手が求人広告を出しているのを見て、私は履歴書と職務経歴書を添付したメールを送った。そしてその日のうちに採用内定の返信が届き、そこに記された雇用条件を見て目を丸くすることになった。給料が2倍になると言うのだから。確かに、面接もないまま入社後のポジションまで決めて告知するなど私から見れば考えられない話だが、それがこの会社の、いや携帯業界の新しさを強調しているようにも感じた。私はただ、それを面白いと感じ、年甲斐もなくワクワクするしかなかったのだ。
私は妻に全てを話した。彼女は不安を口にしたが、私は自分の思いを一つ一つ噛んで含めるように説明し、君達を路頭に迷わせることは決してないと誓いをたてた。

会社を辞めてから入社するまでの10日間、私は必死で携帯のコンテンツ開発に必要な知識と技術を勉強し、気合を入れ直す為に床屋へ行って白髪を染め、スーツも1着誂えた。こんな気持ちになったのは社会人になった時以来のことだった。
オフィスは六本木にあった。
最近できた巨大なビルの最上階がそれだったが、今にも雨が降りそうなその日の朝は、雲に隠れて下からその様子を見ることはできなかった。水晶でできているのか?と思わせるほど異常に透明度の高い回転ドアを抜け、大理石を敷き詰めたエントラスで足を滑らせそうになりながら、私はエレベーターに乗り込んで目指すフロアへと向かった。
エレベーターが上昇を始めると照明が落ち、壁面や天井にはどこかの砂漠を走るハイウェイの映像が映し出された。それは夜で、空には満天の星が輝いていた。その美しさに心が奪われそうになると、かすかに空気の温度が下がり、今まで嗅いだことのない花の匂いか何かが鼻腔をくすぐるのを感じた。
フロアに到着するまでの時間は長かった。本当は1分に満たない時間だったはずだが、小一時間は砂漠の旅を続けたように感じられた。ドアが開き、外界の光で目をしばたかせながら、不思議なことに私は、もう少し乗っていたいのに・・・、という感覚を覚えていた。

オフィスの入り口には女性社員が立っていた。
私の姿を確認すると
「お待ち申し上げておりました」
と彼女は静かに頭を下げた。
私が自分の名前を言い、それに今日からよろしくお願いいたしますの挨拶を付け加えると、彼女はまるでどこかのホテルの従業員のようにこう言った。
「ようこそ、IT業界へ」

 On a dark desert highway, cool wind in my hair
 Warm smell of colitas, rising up through the air
 Up ahead in the distance, I saw a shimmering light
 My head grew heavy and my sight grew dim
 I had to stop for the night


 真っ暗闇の砂漠を走るハイウェイ、冷えた空気が髪を撫でていく
 マリファナの生暖かい香りが、宙に放たれ消えていく
 走る先に、かすかな灯りが見えた
 すると頭が重くなり、視界が暗くくすんでいった
 今夜はどこかに泊まらなければ、と思ったんだ


 There she stood in the doorway;
 I heard the mission bell
 And I was thinking to myself,
 'This could be Heaven or this could be Hell'
 Then she lit up a candle and she showed me the way
 There were voices down the corridor,
 I thought I heard them say...


 辿り着くと、入り口には女の子が立っていた
 客の到着を知らせるベルの音が聞こえ
 その佇まいを見ながら、自分に言い聞かせたのさ
 ”ここは天国かもしれないし、地獄なのかもしれないぞ”って
 女の子は蝋燭に火を灯し、足元を照らしてくれた
 回廊の下の方から声がして
 オレの耳には、こんな風に聞えたんだ


 Welcome to the Hotel California
 Such a lovely place
 Such a lovely face
 Plenty of room at the Hotel California
 Any time of year, you can find it here


 ようこそ、ホテル・カリフォルニアへ
 魅力溢れるこの場所へ
 魅力的なお客様が集まるこの場所へ
 ホテル・カリフォルニアが誇る数多くの部屋は
 1年中どんな時であっても、ご利用頂ける準備が整っております


「貴方のお席はこちらです」
真新しい机の上に開発用と思われるパソコンが1台置かれただけの、極めてシンプルな環境が今日から私が身を置く戦場だということのようだった。しかしその「武器」は異様な姿をしていた。それはまるでいくつものペンキを無造作に混ぜぶちまけたような状態で、何故そのような塗装を施したのか全く理解ができなかった。しかも、ほんの少しそれを見つめただけで目眩が起きるほど私の色彩感覚とはかけ離れたものだった。
オフィスは広く、澱んだ空気の先がどこまで広がっているのか見当もつかない規模だった。天井は鏡で埋め尽くされ、そこには不安げな表情でそれを見上げる私自身の姿が映っていた。
「わが社には教育も規範も、・・・貴方が思う企業像にマッチするものは何もございません。存在するのは作業指示書と評価だけです」
彼女は静かにそう告げると、私の元から離れていった。
また目眩を起こさぬよう、画面だけを注視してパソコンのスウィッチを入れると、いきなりこの会社のロゴマークが現れたが、次のステップに進むことはなかった。困惑しながら周囲を見渡すと、離れた席に座っている若い男性がタバコを口にしている姿が見えた。空気の悪さの理由はこれだったのかと気がついたが、その匂いは自分が過去に吸ったタバコのどれとも違うことに気がついた。そしてそれが、エレベーターの中で嗅いだものと同じであることを認識するまでに、さほど時間はかからなかった。
とにかく、ここが禁煙ではないと悟った私は、自分も一服しようと思い、ひとまず灰皿を探しそうと立ち上がった。
すると始業を知らせる為か、オフィスにはワーグナーの交響曲ハ長調が流れ始め、それをバックにこんな声が響き渡った。
「自由であることこそが想像を生み、創造を促す!古い概念からは何も生まれない!わが社は諸君らに自由であることを求め、常識を駆逐し、倫理を破壊することを求める。常に革新的であれ!常にフロンティアを目指せ!常にアナーキストであれ!」
おそらくそれは、社長か誰かの訓示なのだろうと思った。
しかしそのボリュームの大きさは異常で、聞けば聞くほど頭は痛くなり、脳の中の何かが崩れ、壊れていくように思えた。それを聞いて徹夜仕事の後そのまま眠っていたのであろう社員達がムクムクと起き上がり始めると、空気はどんどんあの匂いを増していった。それを吸い込む度に、私は自分の中から何かが少しずつ体の外へと流れ出していくように感じられた。
訓示は何度もリピートされ、オフィスに静寂が訪れることはなかった。頭痛は更にひどくなり、私は意識が薄れていくのと同時にひどい吐き気も覚え始めていた。
ふらつく足でトイレへ行こうとすると、訓示の影で奇妙な声が聞こえ始めた。
その方向へ視線を向けると、そこには机の上に寝かされた裸の女がいて、その周囲にいる何人もの男が彼女の体に手を這わせていた。それはまるでアダルトビデオの撮影現場のような光景だったが、私のようにその輪に加わらず眺めている者は一人もいなかった。
痛む頭を抱え、とにかく朝食を胃袋から吐き出したい私は、彼らを注意しようという義務感を置き去りにし、とにかくトイレを目指そうと足を進めた。
すると今度は、こんな声が聞こえてきた。
「ほら、お前言ってたじゃん」
「・・・」
「やっちゃえよ。せっかく準備してやったんだからよぉ・・・」
それは先輩後輩の関係にあると思われる男二人の姿だった。
彼らの間には人が一人入るほど大きな麻袋があり、しかもそれは動いていた。そして若い方の男の手には、剣が握られていた。
「殺すって感覚がわかんないだろ?」
「・・・」
「この袋に、そいつを突き刺してみろよ」
「・・・いえ、リアルでこういうことをするのは、ボクには・・・」
「いいモノ作るのに必要なんじゃねーのかよ?生きている身体の中を剣が進んでいく感触とか、血が噴出したり、骨と肉を分離したり、内臓を抜き取り踏み潰す感覚とかをさぁ」
「・・・い、いきおいで言ってしまって、す。すいません・・・」
「これ、お前が作るって言った携帯ゲームのシチュエーションそのものなんだぜぇ?ここじゃ、過程なんかどうでもいいんだって。いいモノさえできりゃ全てOK。お前だってわかってんだろぉ?」
「・・・は、はい」
「やっちゃえよ、ブスっとさ」
「でも・・・、この袋の中に入っているの、・・・まさか、その・・・、に、にんげ・・・」
「・・・やれよ」
「で、でも・・・」
「や・れ・よ」
二人のやりとりもやはり、誰かがそれを止める様子はなかった。剣を握ったまま動けない後輩は、先輩に小突かれ、火のついたタバコを腕に押し付けられていたにも関らず。

気がつくと、オフィスのあちこちで似たような光景が繰り広げられていた。
ある者は自分の腕に注射器を突き立てて恍惚とした表情を浮かべていた。
男同士が抱き合い、何人かの女がお互いの胸をもみながらうっとりした表情でそれを眺めてもいた。
そこには理性も、倫理も、道徳も、そして背徳感でさえ微塵も存在してはいなかった。
それは明らかに異常な事態であるはずなのに、異常だと声を挙げる者が誰一人いない異常さ、いや、それを異常だと感じる私の方がおかしいのか?
誰かの机に手をつき、次第にかすれそうになる意識を振り絞りながら、私は必死に脳を動かし何をすべきか答えを導き出そうとしていた。
これが今この国最大の産業になろうとしている業界の真の姿なのか?会社とは名ばかりで、一歩中に入れば法律も何もかも吹き飛ばし、ただやりたいものを欲望のままにやるだけの世界だとは・・・。

軋む胃袋に手をあてながら入り口へ向かい、私は自分を案内してくれた女性の姿を探した。彼女はまだそこにいて「体調が悪い、休ませて欲しい」と声をかけるとこう言った。
「1995ネンカラ、ココニハ”コウタイ”トイウコトバハアリマセン」
コウタイ?交代?後退?

 Her mind is Tiffany-twisted, she got the Mercedes bends
 She got a lot of pretty, pretty boys, that she calls friends
 How they dance in the courtyard, sweet summer sweat.
 Some dance to remember, some dance to forget


 客の女はティファニーのアクセサリーに御執心、ベンツでここにやって来た
 イケメンを何人も侍らせながら、皆友達よと嘯いてる
 中庭で連中が踊っている様は、夏に流す気持ちのいい汗を思わせる
 踊っている曲のいくつかは覚えているが、忘れていたものもある


 So I called up the Captain,
 'Please bring me my wine'
 He said, 'We haven't had that spirit here since nineteen sixty nine'
 And still those voices are calling from far away,
 Wake you up in the middle of the night
 Just to hear them say...


 ボーイ長を呼んで
 ”ワインを持って来てくれ”と告げた
 すると彼はこう答えたんだ”そのスピリットは1969年から品切れとなっております”
 まだ、さっき回廊で耳にしたあの声が遠くから聞えていた
 真夜中に目が覚め
 それに注意深く耳を向けると・・・


 Welcome to the Hotel California
 Such a lovely place
 Such a lovely face
 They livin' it up at the Hotel California
 What a nice surprise, bring your alibis


 ようこそ、ホテル・カリフォルニアへ
 この魅力的な場所へ
 魅力的なお客様が集まるこの場所へ
 ホテル・カリフォルニアに用意された数多くの部屋は
 1年中どんな時であっても、ご利用頂ける準備が整っております


割れるように痛み始めた頭の中で、私はパソコンに映し出されたあのマークのことを思い出していた。

あれはこの会社の何かなんかじゃない、大麻の葉じゃないか!
つまり、このオフィスに漂う匂いは、マリファナじゃないか!
頭痛は、こいつを吸い込んだせいじゃないか!

ここにいてはマズい、と直感した私は朦朧とする意識の襟首を掴みながら出口を探した。
しかし、あの女の立つ場所以外、外へ出るドアは見つからなかった。
腰がくだけそうになり、思わず側にあった椅子に座ると隣にいた男が自分の口にあったタバコを私の口へ押し付けた。あの匂いが一気に肺へと流れ込み、私の感覚は麻痺していった。
失われていく視界の中に、あの女が現れた。
「た、退職したい・・・」
私が必死に顎を動かすと、女は口元に冷たい笑みを浮かべてこう言った。
「落ち着いてください。ところで、この国の産業の7割がサービス業なのはご存知ですか?そしてIT業界がその中に占める割合は?退職されたい?いつでも可能ですよ」
「・・・では」
「でも、・・・貴方はコンピュータに関っている限り、この業界から離れることはできません。決してね」

 Last thing I remember, I was
 Running for the door
 I had to find the passage back
 To the place I was before
 'Relax,' said the night man,
 We are programmed to receive.
 You can checkout any time you like,
 but you can never leave!


 最後に覚えているのは、
 ドアに向って走り出したこと
 道筋の記憶を手繰り寄せなければならなかった
 ここを出て、自分がいた場所へと戻る為に
 ”落ち着いて下さい”夜間担当のボーイが言った
 お客様をお迎えすることは最初から決まっておりました
 お客様はいかなる時でもチェックアウトして頂けます
 しかし、決してここから離れることはできません


<関連サイト>http://pingpongkingkong.blog108.fc2.com/blog-entry-78.html
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